2021/02/16
研究活動

本学公衆衛生学分野(菊池宏幸講師ら)の論文が掲載:「新型コロナウイルス感染症第一波のメンタルヘルス悪化は、低所得者でより大きく、また感染者減少後も持続していた ~低所得者には継続的な支援が重要~」

概要

中国体彩网(学長:林由起子/東京都新宿区)公衆衛生学分野の菊池宏幸らは、関東地方在住の20-79歳の日本人男女2,400人を対象に、新型コロナウイルス感染症アウトブレイク時における一般市民のメンタルヘルスに関するインターネット調査を2020年2月?4月?5月の3時点で実施しました。その研究成果が2021年2月15日に国際医学雑誌British Journal of Psychiatry Openオンライン版で発表されました。

●関東地方在住の20-79歳の日本人男女2,400人を対象に2020年2月?4月?5月の3時点でインターネット調査を実施しました。

●メンタルヘルス不良者の割合は、感染拡大時期(2月→4月)では増加し、感染縮小時期(4月→5月)は減少していました。

●一方、低所得者では、感染縮小時期(4月→5月)も、メンタルヘルスの問題が継続し、むしろ不良者の割合は増加していました。

●新型コロナウイルス感染症蔓延下ではメンタルヘルス対策が重要ですが、感染者が減少しても経済的困窮の解決には時間を要する可能性があります。低所得者に対する支援には継続的に実施する等の配慮が必要です。

研究の背景

新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」とする)が日本で危惧され始めた2020年2月25~27日、小学校が全面休校(3月2日以降)となった時期で緊急事態宣言(4月7日発令)が出される直前の4月1~7日、緊急事態宣言が解除(5月25日)される直前の5月12~17日の3時点で、関東地方在住の20歳から79歳の日本人男女2,400人にアンケート調査を行いました。Kessler's six-item psychological distress scale(K6)という質問票1を用いて、重度のうつ?不安障害が疑われる程度のメンタルヘルス不良(K6≥13点)の有無を判定しました。

本研究で得られた結果?知見

メンタルヘルス不良者(重度のうつ?不安障害が疑われる者)の割合は、流行が拡大していた2月から4月にかけて有意に増加していましたが(2月9.3%→4月11.3%)、流行が縮小していた5月には10.2%と減少しました(図1)。

また、個人の年収別に検討した結果、年収が200万円以上の群では、流行が縮小していた時期(4月~5月)はメンタルヘルス不良者の割合が減少していましたが、200万円未満の群では更に増加していました(図2)。

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    図1. 関東地方(1都6県)の患者数とメンタルヘルス不良者の割合
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         図2. 年収別のメンタルヘルス不良者の割合


今後の研究展開および波及効果

本研究により、新型コロナ第一波のメンタルヘルス悪化への影響は、高所得者に比べ低所得者でより大きくかつ長期間継続していたことが分かります。またこのことは、経済状況によって健康格差が拡大していた可能性を示唆しています。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行時の香港では、市民のメンタルヘルスが悪化し、自殺者数の増加がみられました2。日本の自殺者数はこの10年間減少傾向にありましたが、2020年は昨年より増加する見込みです3。このことから、新型コロナ下ではなお一層のメンタルヘルス対策の強化が必要です。本研究の結果から、仮に感染者が減少しても経済的困窮の解決には時間を要する可能性があり、低所得者へ配慮した対策(例えば、所得者に対する支援は継続する等)が重要と考えられます。

掲載誌名

British Journal of Psychiatry Open

論文タイトル

Development of Severe Psychological Distress among Low Income Individuals During the COVID-19 Pandemic: A Three Time Point Longitudinal Study

著者

Hiroyuki Kikuchi, Masaki Machida, Itaru Nakamura, Reiko Saito, Takako Kojima, Hidehiro Watanabe, Shigeru Inoue

書誌情報

BJPsych Open <https://www.cambridge.org/core/journals/bjpsych-open> , Volume7
<https://www.cambridge.org/core/journals/bjpsychopen/volume/CCABB1F7841AA0873E9B23F83719E4C5>, Issue 2
<https://www.cambridge.org/core/journals/bjpsychopen/issue/FE4D3E0E5957ACB5E8E1821B0B72101F>, March 2021 , e50

URL

https://doi.org/10.1192/bjo.2021.5

主な競争的研究資金

本研究は、公益財団法人明治安田厚生事業団から研究助成を受け、実施しました。

補足資料:図解?表等 添付

上図1~2

先行文献

1. K6は米国のKesslerらによって、うつ病?不安障害などの精神疾患をスクリーニングする

ことを目的として開発され、一般住民を対象とした調査で心理的ストレスを含む何らかの精

神的な問題の程度を表す指標として広く利用されています。このK6で13点以上の方は、重度のうつ?不安障害が疑われます。(出典:厚生労働省)

2. Yip, P.et.al. (2010) Crisis 31, 86-92

3. 警察庁 令和2年の月別自殺者数について(11月末の暫定値)

参考

公衆衛生学分野におけるCOVID-19 アウトブレイク時における一般市民の予防行動に関する研究結果>>

研究結果①:感染予防行動のうち「目鼻口に触らない」の実施率が最も低い

研究結果②:予防行動に関する行動変容は男性と低所得者で少ない

研究結果③:COVID-19 アウトブレイク下において風邪症状のある労働者の多くが十分に自主隔離できていない

研究結果④:COVID-19 パンデミック下においても マスクを正しく使用している者は少ない ~マスクマネジメントに関するさらなる啓発が求められている~

研究結果⑤:新型コロナウイルスの流行下で一般市民のメンタルヘルスは悪化した ~悪化したのは特に低所得者、呼吸器疾患を抱える者だった~

研究結果⑥:日常生活での手洗い回数は 1 日 10 回では不十分

〇本研究に関する問い合わせ先

中国体彩网 公衆衛生学分野

講師 菊池 宏幸

E-mail: TMUPHIC.2020@gmail.com

〇プレスリリースに関するお問い合わせ

中国体彩网 総務部 広報?社会連携推進課

TEL: 03-3351-6141(代表)

■公衆衛生学分野ホームページはこちら>>

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