2020/11/20
研究活動

本学医学総合研究所?免疫制御研究部門が参画する研究グループの論文が掲載:「炎症状態という新たな概念での蛋白質の高次構造形成の増強機構の解明」

 本学医学総合研究所?免疫制御研究部門が参画する研究グループの研究成果「炎症状態という新たな概念での蛋白質の高次構造形成の増強機構の解明」が、2020年8月18日、学術誌「Journal of Clinical Investigation」に掲載されました。

炎症状態という新たな概念での蛋白質の高次構造形成の増強機構の解明

医学総合研究所?免疫制御研究部門
溝口 出?井上槙也?長谷川英哲?川名千晶?徐 明利?善本隆之


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図1.IL-6/IL-12ヘテロダイマーサイトカインファミリーのサブユニット構成と機能

<研究の概要と背景>
蛋白質が正常に機能するには、アミノ酸の連らなるポリペプチド鎖が正しい立体構造(高次構造)に折りたたまれる必要があります。この折りたたみのプロセスを制御するのが「分子シャペロン」です。新しく生合成された細胞外分泌蛋白質や膜蛋白質は、小胞体でカルネキシンと呼ばれる分子シャペロンに結合し、蛋白質の正しい高次構造が形成され、その後、ゴルジ体を通って細胞膜に運ばれます。これまでは、この蛋白質の高次構造形成は、定常状態および病的な炎症状態という状態を区別して、その作用機序が議論されることはありませんでした。一方、Interleukin (IL)-6/IL-12ヘテロダイマーサイトカインファミリーは、サイトカイン自身が2つの異なるサブユニットから構成され、1つのサブユニットが複数のサイトカインで共有されるというサイトカインとしては極めてユニークな特徴を有し、ヘルパーCD4+T(Th)細胞の分化やエフェクター機能の発現に重要な役割を担っています(図1)。


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図2.EBI3による分子シャペロンであるカルネキシンを介したIL-23Rαの発現増強

<本研究で得られた結果?知見>
今回、このファミリーのIL-27とIL-35、IL-39の共通サブユニットEpstein-Barr virus-induced gene-3(EBI3)が、炎症が起こるとCD4+T細胞で発現誘導され、サイトカインとしての機能ではなく、細胞内分子として標的分子の蛋白質レベルでの発現を増強するという新たな分子シャペロン様の機能を有していることを見出しました。炎症性腸疾患モデルマウスなどを用いてその作用機序を検討したところ、EBI3が、小胞体で蛋白質の正しい高次構造形成に重要な分子シャペロンであるカルネキシンへの結合を介し、腸炎などの炎症性疾患の発症に重要なIL-23のレセプター(R)のサブユニットの1つIL-23Rαの蛋白質レベルでの発現を増強することを明らかにしました(図2)。この発見は、炎症が誘導されると、恒常的に発現されているカルネキシンに加えてEBI3の発現が誘導され、カルネキシンと共にその標的分子の蛋白質の正しい高次構造形成を促進するという、炎症状態での新たな蛋白質発現の増強機構を提案する発見です。

<今後の研究展開および波及効果>
現在、EBI3に結合する標的分子を探索し、その会合体の新たなサイトカイン様の作用や恒常的シグナル伝達誘導の可能性などを検討し、この概念を広く一般化することを目指しています。本発見は、がんや自己免疫病などの病態形成の新たな機序解明に繋がることが期待されます。

<共同研究機関>
本研究は、東京大学の松島綱治先生(現東京理科大学)?橋本真一先生(現和歌山県立医科大学)と本学分子病理学分野の黒田雅彦先生?藤田浩司先生および疾患モデルセンターの須藤カツ子先生との共同研究です。

<競争的研究資金>
文部科学省科研費補助金および私立大学戦略的研究基盤形成支援事業の支援を受けております。

<発表論文>
Mizoguchi I, Ohashi M, Hasegawa H, Chiba Y, Orii N, Inoue S, Kawana C, Xu M, Sudo K, Fujita K, Kuroda M, Hashimoto S, Matsushima K, and Yoshimoto T. EBV-induced gene 3 augments IL-23Rα protein expression through a chaperone calnexin. J Clin Invest. 2020 130(11):6124-6140.

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